同色染めについて
2023.10.10
皆様は「革製品」といえば何色を想像しますか?
なんとなくブラウンやブラックを想像してしまいがちかもしれません。しかし、少し目を配って見ればレッドやブルー、イエロー、オレンジ、グリーン、ホワイト……と、パッと目に付く鮮やかな色から日常に馴染む穏やかな色まで実に様々な色の革製品が溢れていることに気が付くでしょう。
お気に入りの色をしたお気に入りの革製品を使っているととても気分がいいですよね。
そんなお気に入りのもが色剥げや色落ち、変色してしまうとショックですよね。
革製品は様々な要因でそういった症状が起こる可能性があります。もし色剥げや変色が起こってしまった場合、焦らずに専門店へ相談することをお勧めいたします。
REPAIR-SHOP HIRAISHIYAでも色剥げ・変色の症状がある革製品の同色染めを行っております。
今回は症状の原因や同色染めの手順、事例等をご紹介していきたいと思います。
目次
1.色剥げ・変色の原因と対策
革製品の色剥げ・変色の原因は様々です。
今回はその中でも特に多い2つをご説明いたします。
1-1 使用による擦れ
色剥げの原因としてまず1番に挙げられるのは「使用による擦れ」でしょう。
使用を繰り返せば自然と擦れが起こり、革の表面が削れていきます。革の表面が削れるということは、革に塗ってある顔料や染めてある部分も削れるということでもあります。そうすると色が付いていないところが見えてきてしまい、だんだんと目立ってきてしまうのです。
また、元々はツルツルした革だったのに、擦れてしまっている箇所はザラザラになっていることがありますよね。これも革の表面が削れているせいなのですが、ザラザラになっていると摩擦が起きやすく、放置していると裂けや穴に繋がって余計にひどくなってしまう可能性があります。
そのため擦れが気になってきたら早めに修理や染め直しをして表面をコーティングし、元の革を守ってあげることが重要になってきます。
1-2 アルコール
次に多いのがアルコールによる色落ちです。
汚れが付いたときに落とそうとしてウェットティッシュ(アルコール類が含まれていることがある)で拭いたり、アルコールで擦ったりしてしまうことが意外と多いようです。また、消毒液が乾ききっていない状態で触ってしまって色落ちした、ということもゼロではありません。
アルコールは非常に揮発しやすい性質を持っており、革を染めている顔料等に含まれている油分と一緒に揮発してしまうため色落ちが起こってしまうのです。
そのため、汚れがついても焦ってアルコールで拭いたりせず、まずは乾拭きで試してみて、それでも落ちなければ専門店へ相談することをお勧めいたします。
1-3 対策
アルコールによる色落ちについては、普段から気を付けておくというのが一番でしょう。
消毒液が乾ききっていない状態の手で触らないこと、汚れがついても無理にアルコールで落とそうとしないこと。このふたつに注意するだけでもアルコールによる色落ちが起こる可能性はぐんと下がります。
擦れによる色剥げについては、使用時に注意することも必要ではあります。しかし、使用時にいちいち気を使っていられないというのも事実です。そこで重要になってくるのは「普段のお手入れ」です。
革の種類にもよりますが、革は使用を繰り替えすことによってだんだんと強く丈夫になっていく性質を持っています。頻繁にではなくても、たまにブラッシングをしてあげたり、専用クリームで磨いてあげたりするだけでも革の劣化を防ぐことができます。
革そのものが丈夫になっていけば擦れても表面の摩擦も軽減され、擦れによる色剥げを防ぐことにもつながっていくのです。
2.同色染めの手順
それでは同色染めの手順を見ていきましょう。
2-1 クリーニング
革製品の染めを行う場合、クリーニングは必須です。
クリーニングをすることによって余計なゴミや塵、汚れを落とし、革の表面をフラットな状態にすることが目的です。
革は水や熱に弱いことが多く、洗剤についても革専用の優しいものを使用しなければなりません。
更に、染めを行う場合は色が入りやすくなるように全体をアルコールで拭き取る必要があります。
2-2 色づくり
色づくりは同色染めで最も重要な工程と言って良いでしょう。
そしてもっとも難しい工程とも言えます。
例えば一言で”青”と言っても、黒みがかった青や緑がかった青、明るい青やくすんだ青など、さまざまな青があります。ブランドや革の状態によって1点1点色が異なることもあり、全く同じ色にすることはほとんど不可能と言われています。
実際に財布やバッグの色を見ながら顔料を混ぜ、できる限り同じ色に見えるよう作っていきます。
ここで難しいのは、目に見えている色と塗った時の色の見え方が異なるという点です。
そのため色を作ったら目立たないところに塗って確認し、合わなければ落として色の調整をします。これを繰り返して違和感のない色を作っていきます。
顔料を1滴足しただけでも微妙に異なった色になるため、色の調整は非常に繊細な作業なのです。
2-3 染め
色づくりが終わったらいよいよ染めに入ります。
染めの工程で重要なのは色ムラを作らないことです。
純粋に色をのせるときの濃度にも注意しなければなりませんが、革にはシボと呼ばれる表面の凹凸があり、特に凹部分は色が入るところと入らないところが出やすいなっています。そのため色を塗っては乾かして色ムラを確認し、染まっていない箇所が無いか十分注意しなければなりません。
しかし、染まっていない箇所があるからといって闇雲に何度も塗り重ねれば良いということでもありません。同色染めに使用しているのは主に顔料ですので、塗り重ねることで段々と色の層が厚くなっていきます。色の層が厚くなるとシボが見えなくなってしまい、ツルツルとした感触と見た目になってしまうのです。
シボは革の風合いを決める大切な要素ですので、できる限りそのままの状態にしておきたいところです。
シボを残したまま色をのせること。これも非常に重要で難しいところですね。
2-4 トップコート
染めが終わったら、最後にトップコートをかけます。
塗った色が落ちないようにしたり、傷を防いだり、撥水の効果をだしたりするとても大事な役割を持っています。
3.同色染めの事例
それではREPAIR-SHOP HIRAISHIYAで依頼を承った同色染めの例を見ていきましょう。
3-1 Louis Vuitton(ルイヴィトン)①
こちらはルイヴィトンのジッピーウォレット(ヴェルティカル)です。
鮮やかなブルーが特徴的ですが、中央部分が色落ちしてしまっています。
ルイヴィトンはシボの凹凸で色が異なっていることが多く、そのほとんどは凸が濃い色、凹が薄い色になっています。このブルーのタイガは凸の濃い色が落ちてしまいこのような色剥げ・色落ちしてしまっている状態です。
このようにシボは非常に細かく、凸部分だけを塗ることは難しいです。そのため凹凸の中間色やパッと見たときに違和感のないよう色を作って同色染めを行いました。このとき溝が溝も染まっていないとムラができ不自然になってしまいますので、まんべんなく綺麗に染めます。
こちらが染め終わった後のシボのアップです。こうして見ると一色で染まっていることがわかりますね。元の一つ前の画像を見ているとかなり色が異なるようにも見えますが、お財布全体を写して染める前後で並べてみると大きな差はないように見えます。
これが凹凸の2色のうちどちらか一方だけに合わせてしまうと明るすぎたり暗すぎたりしてしまうのです。そのため、非常に難しいことではありますが、2色の中間を狙って色づくりをすることがとても重要です。
3-2 Louis Vuitton(ルイヴィトン)②
こちらはルイヴィトンのショルダーバッグ(ロマン)です。
使用と擦れによって色剥げなどが起こっています。こちらも先ほどご紹介したブルーのお財布と同様タイガラインですので、凹凸で色が異なっているタイプの革です。これもやはりどちらか一方の色の合わせてしまうと明るすぎたり暗すぎたりするため、中間色を作って染めを行っています。
上部中央にはシワによる擦れが起こり、革の地の色が出てきてしまっています。こういった部分はシボが消えてしまっていることもあり、顔料を厚く塗らなければ地の色が隠せないあります。顔料を厚く塗るとテカリのようになってしまいますためできるだけ避けたいというのがREPAIR-SHOP HIRAISHIYAの考え方です。
これは実際に塗ってみるとシボは消えておらず、できる限り顔料は薄く塗ってシワが埋まりツルツリした風合いになることを避けました。
3-3 COACH(コーチ)
こちらはCOACHの二つ折り財布です。使用による擦れが目立ってきていますね。
これはシボはもちろんですが、COACHの頭文字である「C」が刻印されているためそれが薄くならないよう注意しなければなりません。また、内側も同色の革が使用されていましたが表側とは微妙に表面の風合いが異なっていましたので、同じ顔料で塗ることで風合いが変わりすぎないよう意識することも大事です。
光沢によっては使用する塗料の一部を変えることもあり、1点1点に合わせた色づくりと染め方が重要ですね。
4.まとめ
さて、今回は同色染めについてリペア・修理事例を踏まえご紹介させていただきました。パッと見ると一色に見えても近づいてよく見てみると2色の組み合わせであることや、それを染めることの難しさが少しでも伝わっていれば幸いです。
普段愛用している革製品でそろそろ擦れが気になってきたものや、誤って変色・脱色させてしまったものがございましたら買い替える前にまずは一度ご相談ください! REPAIR-SHOP HIRAISHIYAではご注文の前に無料カウンセリングにてご状態を見せていただくことを推奨しており、お写真をお送りいただけますとメールにて修理内容やだいたいの金額等をご返信しております。
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