今回お預かりしたのは、ステラマッカートニーを象徴する「ステラ ロゴ」シリーズのショルダーバッグです。このバッグの最大の魅力は、フロントに施されたサークル状のロゴパンチング加工にあります。一般的なブランドバッグのように金具やプリントでロゴを主張するのではなく、レザーに精密な穴を開ける「抜き」の技法で表現されているのが特徴です。このパンチングが生み出す控えめながらも奥行きのある表情は、ロゴ自体がデザインの主役でありながら、背景の素材感を透過させることで、どんなコーディネートにも溶け込む軽やかさを生み出しています。使用されている「エコレザー」は、動物愛護を掲げるブランドの誇りそのもの。本革に劣らない滑らかな質感と上品な光沢を持ちつつ、パンチング加工に耐えうるしなやかさと強靭さを兼ね備えています。シックなブラックのボディに対し、スポーティーな印象を与える太めのショルダーストラップが組み合わさることで、現代のライフスタイルにマッチする絶妙なバランスを保っています。オーナー様の日々に寄り添ってきたこの美しいデザインを維持するため、今回は負荷のかかりやすいストラップ接続部の修理を行っていきます。
2026/02/16
その他修理リペア
Stella McCartneyストラップ修理
こんにちは。高級ブランドバッグ・財布等の修理専門店のREPAIR-SHOP HIRAISHIYA(リペアショップひらいしや)です。今回修理をお預かりしたのは、現代のファッション界において「サステナブル・ラグジュアリー」の先駆者として君臨する、Stella McCartney(ステラマッカートニー)のショルダーバッグです。創業者のステラ・マッカートニーは、元ビートルズのポール・マッカートニーと、写真家であり動物愛護活動家でもあったリンダ・マッカートニーの次女として、1971年にロンドンで生まれました。輝かしい家系に生まれながらも、彼女は幼少期から両親と共に有機農場での生活を送り、自然や動物への深い敬意を育んでいきました。この生い立ちこそが、後のブランドの根幹を成す「ベジタリアン・エシカル(倫理的)」という強い信念の源泉となっています。彼女はロンドンの名門校セントラル・セント・マーチンズを卒業後、若干25歳でフランスの老舗メゾン「クロエ」のクリエイティブ・ディレクターに抜擢されました。そこで彼女が生み出した、フェミニンでありながらシャープなテーラリングを融合させたスタイルは、世界中で大きな成功を収めます。そして2001年、自らの名を冠したブランド「ステラマッカートニー」を設立しました。ブランド設立当初、ファッション業界において「レザーやファーを一切使わない」という選択は、非常に無謀な挑戦だと捉えられていました。ラグジュアリー=高級な本革という固定観念が根強かった時代に、彼女はあえて人工素材の使用を宣言したのです。しかし、彼女は代替素材を単なる「フェイク(偽物)」ではなく、独自の最先端技術を駆使した「オルタナティブ・レザー(代替レザー)」へと昇華させました。ステラマッカートニーの製品には、ベジタリアンである彼女のこだわりから、本物の動物の皮は1ミリも使われていません。代わりに再生ポリエステルや植物由来の素材など、環境負荷の低いハイテク素材が採用されています。それでいて、本革を凌駕するような柔らかな質感と高い耐久性、そして何よりも洗練されたデザイン性を両立させたことで、世界中のファッショニスタから絶大な支持を集めるようになりました。動物を犠牲にせず、地球環境を守りながら、最高にクールでモダンなスタイルを楽しむ。ステラマッカートニーが提示したこの新しいラグジュアリーの形は、現代社会において最も尊い価値観の一つとなっています。
修理リペアの実例概要
今回お預かりしたバッグの最大の課題は、ショルダーベルトを支える「根革」部分に生じた深刻なダメージです。お写真を拝見すると、本体と金具を繋ぐ重要な根革部分が、ステッチ(縫い目)に沿って裂け始めてしまっています。現状はかろうじて繋がっているものの、強度は著しく低下しており、わずかな負荷でも完全に破断してしまう恐れがある状態です。ステラマッカートニーが誇るエコレザーは、その柔らかな質感と高いデザイン性が魅力ですが、一方でミシン目から入った亀裂が広がりやすいという側面も持っています。特に、ストラップの付け根は荷物の重さが絶えず集中する箇所であるため、長年のご使用に伴い、どうしてもこのような「縫い目からの破れ」が発生しやすくなります。この状態では、どれほど外観が美しくても安心して持ち歩くことはできません。また、このまま使い続けるとバッグ本体側の縫製ラインまで傷めてしまうこともあり、さらに大がかりな修理が必要になるリスクがあります。大切なバッグを長くお使いいただくため、今回はこの根革部分を新しい素材で丁寧に作り直し、再び安心してお使いいただける状態へと復元してまいります。
今回の修理では、破れてしまった根革を一度解体し、新しい素材を用いて根革パーツを作り直します。ステラマッカートニー独自のエコレザーは、特有のしなやかさと光沢を持っています。この質感に限りなく近く、かつ今後同じような破れが起きにくい強靭さを備えた「本革」を厳選しました。人工的な構造を持つエコレザーに対し、本革は天然繊維が複雑に絡み合っているため、ミシン目から裂けやすい弱点を物理的に補い、格段に高い耐久性を発揮します。作業工程では、取り外したオリジナルの根革から精密に型取りを行い、革の断面の仕上げ(コバ剤でのコーティング)や厚みの調整を施して、元のデザインを忠実に再現しました。縫製についても、バッグ本体に残された元の針穴を一つひとつ拾いながら、オリジナルのステッチ幅や糸の色に合わせて一針ずつ丁寧に縫い上げています。 異なる素材である本革を使いながらも、表面のシボ(革の表面ある細かな模様)の質感や光沢を合わせることで、全体のエコレザーと違和感なく調和しており、修理の痕跡を感じさせない極めて自然な風合いに仕上がりました。デザインの再現性と実用的な強度の両立を追求したメンテナンスとなりました。
メンテナンスを終えたステラマッカートニーのバッグは、一時の危機的な状況が嘘のように、再び凛とした佇まいを取り戻しました。 新しく作り直した根革は、太めのショルダーストラップもしっかりと支えられる安心感のある仕上がりです。ステラマッカートニーの象徴でもあるパンチング加工のロゴの美しさはそのままに、接続部の強度が回復したことでこれからも安心してお使いいただけます。「良いものを、手入れしながら長く大切に使う」という考え方は、まさにブランドが提唱するサステナブルな精神そのものです。たとえ素材に寿命や弱点があったとしても、適切な素材選びと確かな技術があれば、そのバッグの物語を終わらせることなく、次の季節へと繋いでいくことができます。 REPAIR-SHOP HIRAISHIYAでは、ブランドごとの特性や素材の個性を深く理解し、オーナー様の想いに応える修理を心掛けています。お気に入りだからこそ諦めたくない、そんな大切なバッグにトラブルが生じた際は、ぜひ一度ご相談ください。再び長くお使いいただけるようお手伝いをさせていただきます。以上で、今回の修理内容のご紹介を終わらせていただきます。最後までお読みいただきありがとうございました。





