合成皮革・トアル地について

2023.03.21

皆様は合成皮革と聞くとどのようなイメージが浮かぶでしょうか?

合成皮革とは天然の素材である本革に似せて作られた素材のうち、基材に不織布以外を用いているもののことです。

動物愛護の観点から本革の使用を控えるべきという声や、本革よりも安価で入手可能というような理由から現在多くの衣類やバッグ、財布、家具等様々なものに使用されている合成皮革。高級ブランドもかなり昔から取り入れている素材です。

今回はその中でもLouis Vuittonのモノグラムやダミエでよく使用されている「トアル地」についてもご紹介いたします。

合成皮革

まず合成皮革とは天然の素材である本革に似せて作られた素材のうち、基材に不織布以外を用いているもののことです。

不織布以外のものと言うと範囲が広いですが、主に編み物や織物を基布にしています。そういった布地にポリウレタン樹脂やポリ塩化ビニルを塗布したものは「合成皮革」、逆に特殊不織布を使用しているものは「人工皮革」と呼ばれています。

様々な衣類、小物、家具などに使用されている合成皮革ですが、実は塗布されているものによって種類や用途が分かれています。

合成皮革が使用されている製品

1-1「PU」レザー

「PU」とは「ポリウレタン(polyurethane)」の略で、基布の表面にポリウレタン樹脂を塗布して天然皮革(本革)に似せて作られた素材のことです。別名フェイクレザーとも呼ばれています。

柔らかくてしなやかな手触りが特徴で、つまんでみるともちもちな感じがあります。撥水性が高くお手入れはしやすいですが、ポリウレタン樹脂が使用されているため湿気に弱いです。お掃除は乾拭きに留めておきましょう。※水分を加えると加水分解が起きる可能性があります。

通気性、柔軟性が高く、何より見た目が本革に近いため高級感のある素材として車のシートやソファーに使用されることも多いです。最近では技術の向上により一見しただけでは本革との見分けが難しいものも出てきています。

1-2「PVC」レザー

「PVC」とは「ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)」の略で、基布の表面にポリ塩化ビニルを塗布して天然素材(本革)に似せて作られた素材のことです。

こちらはPUに比べて安価で入手可能であり、PUに比べると表面が硬く、つるつるした手触りをしています。耐久性に優れているため水や中性洗剤でのお手入れが可能です。加工がしやすくて抗菌や防汚のような機能も付けやすく、非常に機能的です。

その一方で通気性や柔軟性はPUレザーには劣ってしまい、経年劣化で硬化したりひび割れが起こったりすることもあります。

(※)加水分解について

様々な合成皮革の劣化例

加水分解とは、その名の通り水分が加わることによって分解されてしまう反応のことです。

特にポリウレタンが使用されている合成皮革で加水分解が起こってしまうと、表面が剥がれボロボロになってしまいます。もともとポリウレタンの寿命は製造から3年と言われており、加水分解が起きても起きなくても長く使用するのは難しい素材です。

とはいえ加水分解が起きるのはポリウレタンが使用されている素材だけではありません。条件下によってはポリ塩化ビニルを使用した製品でも加水分解が起きることも十分考えられます。

  

2.トアル地

トアル地とは、エジプト綿にポリ塩化ビニルを塗布しコーティングした素材のことを指します。前述した「PVC」レザーにあたり、防水性、耐久性に優れています。傷が付きにくいこともあり、使いやすさ、お手入れのしやすさでも非常に優秀です。ただし経年劣化や加水分解によって剥がれやヒビ、べたつきが出てくることもあります。

2−1どんなものに使われているの?

”トアル地”を使用したLouis Vuittonの代表的なライン(左:ダミエ/右:モノグラム)

このトアル地が使用されている代表的なブランドはかのLouis Vuittonです。なかでも「モノグラム」「ダミエ」といった、誰でも一度は見たことがあるであろうラインがこれに当たります。あれって本革じゃないんだ、と思われるかもしれません。しかし、このトアル地に使用されているエジプト綿は世界三大綿の一つとされており、非常に長い繊維が特徴的です。繊維が長いとその分糸を細く頑丈に作ることができ、その糸で織られた綿も質と強度が優れたものになることは必然と言えるでしょう。

モノグラムやダミエはそんなエジプト綿にポリ塩化ビニルを塗布された素材とヌメ革が組み合わさって構成されているものがほとんどです。ヌメ革は劣化してしまったとしても交換が可能ですので、逆に言えばトアル地の部分さえ残っていればほとんどの部位が交換可能、ということです。

2−2加水分解が起きるとどうなるの?

トアル地が使用されている製品が加水分解を起こすとべたつきが出てきます。とはいえ、Louis Vuittonのバッグやお財布等であればトアル地そのもののべたつきよりはその内側の生地に症状が出る傾向にあります。トアル地は耐久性に優れていますが通気性があるとは言えず、湿気の多い日本ではこの加水分解による内側のべたつきが多く見られます。べたつきが出てしまうとお直しは難しくなります。そういった症状の場合、REPAIR-SHOP HIRAISHIYAでは内側の生地をシャンタン生地へ張り替える修理を行っております。シャンタン生地は吸水性、速乾性、通気性に優れた素材で、トアル地の欠点を補ってくれます。

また、加水分解が起きると匂いも気になることがありますが、匂いだけであれば日ごろから使用していればそのうち自然と消えていきます。分解反応が原因で発生している匂いのため、クリーニングでこの匂いを取ることは難しいです。

加水分解によって内側の生地がボロボロになっている様子

2−3適切な取り扱いは?

この記事でご紹介してきた通り、トアル地は通気性に欠ける部分があります。大切なバッグやお財布は仕舞い込みがちになってしまいますが、その仕舞い込むことこそが原因となってしまうことがあります。そのため使用しないときは直射日光を避け、できるだけ風通しの良い場所で保管しておくのが良いでしょう。どうしてもしまっておかなくてはならない場合は、ビニールは絶対に避け、紙袋や不織布に入れておくと湿気を吸ってくれるためいくらか安心です。

まとめ

合成皮革は種類によって様々な特徴があり、それぞれメリット・デメリットがあります。使用されている素材がどのようなものなのか、どんな手入れが必要なのか十分に知っておくことである程度劣化を防ぐこともできます。ただ、バッグやお財布などは素材の表示がないことがほとんどです。ご心配であれば購入時にショップ側へ聞いてみるのが一番良いでしょう。

劣化が進んでしまったけれど、これからも使いたい。そんなお品物があればぜひ一度REPAIR-SHOP HIRAISHIYAへご相談ください。