ヌメ革(交換)について

2023.05.31

皆様は「革と言えばコレ」と言われて思い浮かべるものはございますでしょうか?

ご愛用されている革製品や、なんとなくベージュっぽいような茶色っぽいようなものが思い浮かんだ方もいらっしゃるのではないでしょうか。

鞄や衣類、靴などの私たちが身に着けるものから家具や楽器、馬具など様々な用途に使用される革。今回はその中でも「ヌメ革」と呼ばれる革についてご紹介していきます。

1.ヌメ革とは?

ヌメ革についてご説明するにはまず「皮」と「革」の違いから始めなければなりません。「皮」は動植物の表面を覆う膜などの部分で無加工の状態を指し、「革」は動物の皮から毛を取り除いたものを指します。

そしてヌメ革とは、動物から得られた皮から毛を取り除き植物由来のタンニンを使用して鞣した無加工の革のことを指します。加工されてしまった革はヌメ革とは呼ばないため、注意が必要です。

全てヌメ革で作成されているバッグ/BREE

1-1 鞣(なめ)し

鞣(なめ)しとは、動物の皮から腐敗の原因となる成分を変化させ鞣し剤を使用して柔軟性や耐久性などの機能性を長く持続させるための工程のことを指します。鞣し剤として使用されるものには「タンニン」「アルミニウム」「クロム」の3つの成分があり、正確にはこのうち「タンニン」を使用して鞣したものだけを「ヌメ革」と呼びます。

鞣しに使用されるタンニンは植物由来です。そもそもタンニンという名前の由来は「革を鞣す」という意味の英語であるタン(tan)から来ており、タンニン鞣しの歴史をたどれは紀元前600年前まで遡ると言われています。具体的にどういうものかというと、お茶やワイン、柿などを口に入れた時に感じる“渋み”を思い浮かべていただくのがわかりやすいかもしれません。しかし鞣しに使用されるタンニンはお茶や柿から採られたものではなく、主にミモザやヘムロックから採れるものが革の鞣しに使用されています。

タンニンには不要なタンパク質を除去する作用があり、この機能が皮に含まれる不要なたんぱく質を取り除いて腐敗しにくくなる効果を与えてくれます。先ほどお茶やワインの“渋み”を思い浮かべてみてくださいと記しましたが、この“渋み”はタンニンが口内のタンパク質を変化させている時に生じる痛みの一種だともいわれています。

つまり鞣しとは皮からタンパク質を取り除き、頑丈で耐久性のある革への変化させる非常に重要な工程なのです。

バッグ内の刻印に使用されるヌメ革/Louis Vuitton(ヴィバ・シテPM)

1-2 特徴

ヌメ革の特徴はいくつかありますが、最大の特徴としてはやはり「色の変化」が挙げられるでしょう。

ヌメ革ははじめ「エンシェント(古代の)イエロー」と呼ばれるナチュラルなベージュ色をしています。使用していくうちに手の脂や太陽光、熱などにより徐々に美しい飴色に変化していきます。使用と手入れを繰り返して光沢のある飴色になったヌメ革の美しさはその革と持ち主が歩んできた時間を表し、使用者にとっても唯一無二のものとなります。

また、使用を続けることで耐久性が上がりますが、同時に柔らかくもなっていきます。オールレザーのものであれば貴方が使いやすい形に変化していくことでしょう。まさに自分だけのアイテムですね。

ヌメ革は匂いも独特です。ヌメ革製品を取り扱うお店へ行ったことがある人なら一度は嗅いだことがあると思いますが、特に新品のヌメ革は何とも言えない独特な匂いをしています。これは正確に言えば革の匂いではなく鞣し剤であるタンニンの匂いなのです。オールレザーの製品を取り扱うお店では常にこの匂いがしていますね。ブランドや製品によっては匂いを抑えているところもあるようです。匂いの感じ方は人それぞれですので、自分に合ったものを探してみるのも楽しみ方のひとつですね。

1-3 変化-エイジング-

先ほどヌメ革最大の特徴として挙げた「色の変化」についてですが、この色の変化は「エイジング」と呼ばれています。実はこれも鞣し剤であるタンニンが深く関係しています。タンニンには紫外線や空気中の酸素によって酸化すると色が濃くなっていく性質を持っています。また、そういった刺激や皮脂の脂等がだんだんと表面に出ることによってあの光沢が生まれるのです。

しかし、このエイジングにもいろいろあります。一番は普段から持ち歩くなどして使用することが何よりですが、ムラのない美しいエイジングをさせるにはお手入れも重要になってきます。ヌメ革は表面に加工がされていない自然な状態ですので、表面にはホコリや傷が付きやすいこともあります。定期的にブラッシングをするなどして表面繊維を均一にすることで小さな傷も目立たなくなっていきます。

10年使用されたヌメ革のペンケース。
ブラッシング等はしていないため傷やエイジングのムラがある。

また、ヌメ革は乾燥にも気を付けなければなりません。綺麗で強い状態を保つには適度な油分が必要になります。油分を保つためには専用のクリームを使用するのが最適ですが、何事にも限度があります。油分が足りている状態なのにクリームを塗ってしまうと過多になってしまいますため、クリームや革製品の説明書などをよく読んでから使用するようにしましょう。

この様にヌメ革のエイジングには注意するべき点が複数あります。ただ使用しているだけではムラになってしまうこともありますので気を付けたいですね。もちろん、人によっては綺麗なエイジングではなくムラを楽しみたいという方もいらっしゃるでしょう。持ち主の扱い方ひとつで表情を変えるのもヌメ革の魅力ですね。

2.Louis Vuittonにおけるヌメ革

Louis Vuitton(ルイヴィトン)のバッグには様々な形でレザーが使用されています。ナチュラルなベージュからブラック、ホワイト、ブラウン、レッド、ブルー、ピンク、パープル、グリーン等ルイヴィトンではカラーバリエーションも豊富ですが、今回は無染色のヌメ革についてご紹介いたします。

ルイヴィトンで使用されているヌメ革も植物タンニンによる天然鞣しを施した牛革で、特にモノグラムラインと組み合わせて使用されているものをよく見かけますね。ベーシックなブラウンのモノグラムにはアクセントとして映え、ホワイト系のものには自然と馴染むルイヴィトンのヌメ革。ルイヴィトンの象徴的な商品であるトランクにも使用されており、ブランドの歴史に寄り添ってきた素材と言えるでしょう。

ヌメ革が使用されたルイヴィトンのバッグ/Louis Vuitton(トロカデロ)

2-1 ハンドル(持ち手)・ショルダーベルト、そして根革として

ルイヴィトンのハンドバッグやトートバッグや、ショルダーバッグには多くの革が使用されていますが、このうち私たちとバッグを繋ぐハンドルやショルダーベルト、そして根革の部分に使用されているのをよく見かけます。

このハンドルやショルダーベルト、根革の部分というのはREPAIR-SHOP HIRAISHIYAに届けられるご相談の中でもかなりの割合を占めており、それだけ大きな負荷がかかる部位と言えるでしょう。この負荷というのは何も重さのことだけなく、歩いている時に自然に起こる摩擦も負荷となります。ヌメ革は非常に頑丈な素材のためルイヴィトンでもハンドル、ショルダーベルト、根革として使用されているのだと考えられます。つまり、ヌメ革でなければもっと劣化が早い可能性があるとも言えますね。

長いハンドルが付いているルイヴィトンのバッグ/Louis Vuitton(バケット)

2-2 パーツとして

ルイヴィトンのバッグやお財布等のアイテムはカラーバリエーションがとても豊富です。とくにエピやヴェルニといったラインでは年代ごとに様々なカラーの物が出されています。

しかし、ルイヴィトンがヌメ革を取り入れるアイテムとしてオーソドックスなのはやはりモノグラムラインが挙げられるでしょう。ルイヴィトンのラインの中でも特にアイコニックなものとして長年に渡り愛され続け、様々なアイテムが登場しています。形はもちろんですが、パーツごとに素材を使い分けることによって大きく印象を変えるものもありますね。

ルイヴィトンにおいて前項で挙げたハンドルやショルダーベルト以外でヌメ革が使用されるとき、多くの場合はバッグの縁取りのような形になります。トアル地(モノグラムが入っている生地)とトアル地の間のつなぎ目(パイピング)として。バッグの口として。時には底革として。こういったパーツとしてヌメ革を使用することで、デザイン性や強度を上げるだけでなくバッグそのものも形を保つ役割も担っています。

様々な箇所にヌメ革が使用されている/Louis Vuitton(ソローニュ)

2-3 刻印として

ルイヴィトンのアイテムには刻印が施されているものも多くあります。それはバッグの外側であったり、内側であったり、ファスナーの引手であったり、ショルダーベルトの一部であったり、はたまたカシメやリベットとしてであったりと、あらゆる箇所に刻印がありますね。金属以外では革に刻印されていることがほとんどでしょう。

ルイヴィトンにはイニシャル刻印サービスもあり、その中でもボストンバッグに付いている伝統的なネームタグへの刻印は特別感もありますね。実はこのネームタグから着想を得て作られた「ネームタグ・XL クラッチ」というバッグも存在します。ネームタグをそのまま大きくしたようなユニークなデザインでありながら、すべてヌメ革で作られているためか非常にシンプルにも見えます。気になる方はぜひ検索を!

ネームタグ。これはイニシャル刻印が無いもの/Louis Vuitton(キーポル)

3.ヌメ革の交換修理

いくらヌメ革が頑丈と言えど、物体である以上使用すれば摩耗や劣化は避けられません。

きちんとした手入れを怠らず綺麗にエイジングできている場合はかなり長持ちすることに間違いはありませんが、それでもやはり劣化はしてしまいます。ましてや手入れをせず長期間放置されてしまったら劣化スピードはかなり速くなります。

REPAIR-SHOP HIRAISHIYAに来る依頼でも根革部分やハンドル、ショルダーベルトが千切れてしまったという例がかなり多いです。前述しました通りこの部分はかなり負荷がかかる箇所ですから、ルイヴィトンに限らず一番最初に劣化が始まるのも当然といえるでしょう。

それではルイヴィトンのバッグを例に挙げながら交換修理についてみていってみましょう。

3-1 根革交換修理

まず根革とは、ハンドルやショルダーベルトとバッグ本体の間にある革のことを指します。根革の交換はご依頼いただく修理の中でも一番多いと言えます。

ルイヴィトンで作られるヌメ革の根革はヌメ革だけで作られているものもありますが、中には革を補強するために別素材の生地を内側に使用しているものもあります。どちらも最終的には劣化しますが、補強素材があるものとそうでないものにはやはり強度に差が出てしまうでしょう。

こちらは実際にREPAIR-SHOP HIRAISHIYAに届いた根革交換修理前のルイヴィトンのショルダーバッグです。

千切れた根革/Louis Vuitton(トロカデロ)

完全に根革が千切れてしまい、ショルダーベルトが外れてしまっていますね。

通常、肩掛けバッグとしてしようしているとベルトは真上になっているため根革も上の部分が千切れそうなものですが、このバッグの場合は少し外側が千切れています。これは根革とバッグ本体を留めているカシメ(リベット)と呼ばれる金属部品が付けられていることが大きく関係しています。カシメがあることによってそれが重さを支える根革の一番細い部分となり、耐え切れなくなってしまったんですね。

こういった場合、千切れてしまったヌメ革はまるごと交換するようになります。現在取り付けられている根革から型を取り、新しい革から同じ形に切り出してバッグへ取り付けるのです。

新しい革になりますので、もちろんエイジングはリセットされます。周りにあるエイジングされたヌメ革とは色が異なってしまいますため、どうしても色の違いが気になる場合は気になる箇所を交換することも可能です。

さて、こちらが根革交換修理後のルイヴィトンショルダーバッグです。

修理後の根革※カシメは刻印の無いものへ交換されている/Louis Vuitton(トロカデロ)

新しいヌメ革に交換され、しっかりとショルダーベルトも付いていますね。

注意点

このルイヴィトンのショルダーバッグの根革にはカシメがついていますが、根革を交換する際はどうしてもカシメを取り外さなくてはなりません。カシメの構造上、一度取り外したものは再利用ができません。そのため元々はLouis Vuittonの刻印が入っていたとしても、刻印が無いシンプルなものへ交換するようになります。

3-2 ハンドル・ショルダーベルトの交換修理

ハンドルとショルダーベルトも根革と同様に非常に負荷のかかる部分で、千切れる箇所として多いのはやはり根革の近くです。

それではこちらもルイヴィトンのバッグを参考に見ていきましょう。

千切れたショルダーベルト/Louis Vuitton(ミュゼット)

縫い目の近くが千切れてしまっているのがわかります。

この様に、ヌメ革のハンドルやショルダーベルトは何もないところから突然千切れるのではなく、カシメであったり縫い目であったりと何かの区切りになっているところから破れ・裂けに繋がっていきます。

そのため、千切れた箇所を縫い合わせたりあて革を縫い付けたりしても完全な解決にはなりません。縫い目から千切れてしまったということはそれだけそのヌメ革が劣化してしまっているということですから、新たに縫い目を増やしてもまたすぐに千切れてしまうことが予想されます。こういったことから、REPAIR-SHOP HIRAISHIYAではヌメ革のハンドルやショルダーベルトが千切れてしまった場合には交換修理でのご対応をしております。

それではショルダーベルト交換修理後のルイヴィトンバッグを見てみましょう。

修理後のショルダーベルト/Louis Vuitton(ミュゼット)

新しい革から切り出されたショルダーベルトが付いていますね。

3-3 交換のタイミングは?

ここまでヌメ革の劣化についてご紹介してきましたが、じゃあ交換修理はどのタイミングですればいいの? と気になっている方もいることでしょう。ヌメ革の交換修理のタイミングは比較的簡単です。

「気になってきたら」。これに尽きると思います。

人によって気になってくるタイミングというのはそれぞれですよね。実際のところ、REPAIR-SHOP HIRAISHIYAに寄せられる修理のご相談も劣化の進行状況は様々です。根革やハンドルが千切れてしまってからご依頼いただくこともありますし、少しだけ擦れてしまったけど直したいとご依頼をいただくこともございます。お客様が使用したいご状態でお使いいただくのが一番かと存じますため、修理のタイミングはお客様ご自身でお決めいただくのがよろしいと考えています。

ただ、あまりにも早い段階(日常的に使用していれば通常起こる範囲での傷等)での交換修理をする場合、今後何度も同じようにヌメ革の交換を行うようになってしまうと思われます。ご依頼を承れば交換修理をすることは可能ですが、使用状況によってはまたすぐに同じような状態へ戻ってしまうことも考えられます。そのため、そのような状態のお客さまから「修理した方がいいですか?」等のご質問をいただいた際には交換修理はお勧めしていない場合もございます。

もちろん千切れるまで使用したいという方もいらっしゃると思います。交換するにはバッグを分解しなければならないことも多く、ご希望箇所を修理するためには他の劣化したヌメ革も交換しなければならない、なんてことになるケースも中にはあります。1箇所が千切れるまで劣化したということは、必然的に他のヌメ革部分も劣化が進んでいる可能性は大いにあります。普段あまり劣化について気にしないという方でも、定期的に点検してみることをお勧めいたします。

千切れかけの根革/Louis Vuitton(ダミエ・ジュアン ボストン)

まとめ

さて、今回はヌメ革のことやヌメ革の交換のこと等をご紹介させていただきました。タンニンによる鞣し、エイジング、交換修理等々、いかがでしたでしょうか?

使えば使うほど魅力を増していくヌメ革。日頃のお手入れを欠かさず大切に使っていきたいですね。高級ブランドにパーツとして使用されているヌメ革はほとんどの場合交換修理をすることが可能です。部分的に雨染みがひどくなってしまったり、劣化がひどくなってしまったり、大きな傷がついてしまったりと、使用していれば予測できないことが起こることもあります。そんな時は諦める前に一度ご相談ください!

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