革と人の歴史について

2023.06.24

我々が想像するよりもずっと前から人々の暮らしと密接な関わりを持っていた革製品。時代が進むにつれて化学繊維が発展・発達していく中でも、靴やカバン・財布などのファッション小物として革製品は多くの人に愛されています。さらにはコロナ禍でのおうち時間を楽しむ一つの趣味として手芸店や100円ショップなどで【レザークラフト】の初心者用キットなどが展開されているのも見かけますね。買って楽しむだけでなく自分で小物などを作って楽しむこともできるようになり、ますます人との距離が縮まってきている革製品は、長い時間と多くの人の手による技術の進歩・苦労があって現在に至っています。

今回は革と人がどのような過程で成長してきたのかについて、お話をしていきます。

1.革と人の歴史

1-1.革と人

革の歴史は20万年前にもさかのぼると言われています。あまりにも大きな数字でイメージしにくいかと思いますが、このころが石器時代にあたります。さらに石器時代は猿人が使っていた石器の発達に応じて旧石器時代と新石器時代に分けられており、200万年前~紀元前6千年は旧石器時代それ以降が新石器時代となっています。

旧石器時代の遺跡からは、当時皮革の加工に使用したとみられる道具などが見つかっています。猿人らの成長や道具の発展に伴い、植物の根や木の実を食べていたのが徐々に虫、蛇や鳥などの小動物を捕獲し食料としていくようになり、その後シカやイノシシなどの大型の動物を狩り、その肉を食べていくようになりました。はじめは皮や骨など肉以外の部分は捨てられていましたが、皮は敷物や雨風をよけるために、骨は皮をはぎ取ったり、肉片をかき取るための道具として使われるようになっていきました。毛皮は寒冷地での防寒対策としても利用されました。また、狩りの際に利用する履物や馬具などとしても用途を広げていったのです。

毛皮はそういった実用性ある用途とは別に、自身の能力や立場の優劣の誇示などにも使われ、それがステータスとされていました。大きな動物の毛皮を身に着けていれば、「それだけ強い動物を倒すことが出来るんだぞ」「自分の方が優れている」というアピールになっていたというわけですね。

1-2.鞣しと人

❶最古の鞣し

今まで、皮が固くなってしまわないよう叩いたり揉んだりというような作業を加えて道具として加工がされていましたが、発展・普及していくなかで、腐敗しやすい肉や魚を燻すことで保存ができること、皮を乾燥させるために焚火の近くに置いておくと皮が腐敗しにくくなって耐久性が出てくることに気付き始めました。これが燻煙鞣しの始まりとされています。さらには、これらの過程を繰り返していく中で、皮に付着している脂肪分が多いと柔らかくなることを見つけだし、動植物の油脂や魚のあぶらなどを塗るというような加工も施し始めるようになります。これは油鞣しの始まりとされています。

これらの方法は最古の鞣し法とされており、どちらか一方のみあるいはその両方を活用して加工が施されていきました。

ミモザの木

❷タンニン鞣し

上記の燻煙鞣しや油鞣しと並んであげられる鞣し方法「タンニン鞣し」は、植物の樹皮や根に含まれるタンニンを皮に浸透させることでタンパク質を分解し、革にします。これをヌメ革と呼びます。鞣しに使われるタンニンには実は複数の種類がありそれぞれ性質が異なります。主に使われる植物は「ミモザ」「チェスナット(栗)」「タラ」「ケプラチョ(うるし科の樹木)」などが挙げられます。これらは大きく二つのタイプに分類されます。縮合型の「赤み」があるタンニンと、加水分解型の「黄み」があるタンニンです。

タンニン鞣しは、上記で例に挙げた植物から抽出したタンニンを含む溶液に皮を浸します。濃度の薄い槽から濃い槽へと徐々にゆっくりと時間をかけて漬け込んでいきます。そうすることによって芯までタンニンの成分が浸透していきます。鞣すのももちろん時間がかかりますが、そこに至るまでの皮の洗浄や脱毛などの工程も、たくさんの時間がかかります。この鞣し方法は皮への負担が少なく、出来上がり後は収縮が少ないことが特徴です。しかし、出来上がるまでとても時間と手間がかかることに加え、作業するにあたって広大な敷地が必要となるため、国内でもこの方法を採用している工場は極めて少ないです。

国外の例を挙げるとイタリアは、古くからタンニン鞣しが行われており併せて染色の技術も発展してきました。優秀なタンナーが多く、高級革製品はイタリアの伝統工芸として代々受け継がれてきました。世界三大レザーの一つとして数えられ、染料の種類も豊富で鮮やかで絶妙な色味に多くの人が魅了されています。

1-3.世界三大レザー

高い品質により絶大な人気を誇るレザーブランド、「コードバン」「ブライドルレザー」「イタリアンレザー」これらが世界三大レザーと呼ばれています。

【コードバン】:馬の皮を使用して作られます。これはヨーロッパで食用肉として生産される馬です。使用しているのはお尻の部分「ベンズ」という部分です。この時使用されるのはその皮の内部にあるコードバン層(2ミリメートルほどの薄い層)のみなのです。このコードバン層は、馬が野生で生きていく中で肉食動物に襲われたときに自分の身を守るための物だと言われています。もともと馬は牛に比べ飼育量が少なく、さらに使用する部位も細かく、一頭当たりから取れる皮はあまり多くありません。バッグなど多くの面積を要するものではなく財布などの小さな革製品に使われることが多く、希少価値が高く、高額です。コードバンは「革の宝石」や「革のダイヤモンド」と例えられますが、それはコードバン層を削り出したり光沢を出す工程が、宝石の発掘や研磨を彷彿とさせることに由来しているようです。緻密できめ細やかな質感と光沢、洗練された雰囲気をまとうコードバンはまさに宝石。「一生モノ」として多くの人々に求められ、常に品薄の状態が続くのも頷けますね。

【ブライドルレザー】牛の皮を使用して作られます。その中でも生後約二年の雌の成牛「カウハイド」、あるいは生後3~6か月以内に去勢した雄の成牛「ステアハイド」が使われます。もともとは馬具として作られた革で、「ブライドル」とは、馬の頭部に装着する「頭絡(とうらく)」という馬具のことを指しています。馬を引く際の手綱をつないだり、馬とコミュニケーションをとるのにも大切な役割を果たし、馬の特性などによってさまざまな種類があります。テレビなどで見る馬の様子をイメージすると、あまり太くないなという印象を持つ方も多いかと思います。大人になった牛は種類にもよりますが500~600㎏ほどはあるので、手綱にとても負荷がかかります。また、万が一乗馬中に革が切れてしまうと人が落馬したり馬が転倒してしまう可能性を持っています。当然そういった負荷やリスクに耐えうる強度が求められ、見事その要求に耐えうる強度を実現しているのがブライドルレザーなのです。

他のレザーと違う点としては「ブルーム」と呼ばれる内部の蝋が染み出し白い粉が吹いていることです。これは耐久性を持たせるため、蜜蝋を丁寧に刷り込みながら作っていることによるものです。この「ブルーム」は使い続けていく中で徐々に取れていき、革の光沢が増していきます。「使い込む→光沢が増す」という過程が他のレザーブランドと比べ分かりやすいので、経年による変化を楽しみながら自分だけの1点を使い込むことでブライドルレザーの魅力を存分に感じられるのではないでしょうか。

【イタリアンレザー】牛革全般が一般的に使用されます。今まで紹介してきたコードバンやブライドルレザーのように、「生後〇か月の~」や「動物の〇〇から採れる」というような限定されたものではなく、それぞれの牛が持ちうる自然な美しさを生かした仕上りが特徴です。革鞣しで有名なトスカーナ州の伝統技術である「バケッタ製法」と「ベジタブルタンニン鞣し」を用いた熟練の職人が手掛ける耐久性に優れた、ツヤの美しいレザーはほかのレザーブランドとはまた一味違った風格で、使っていく中で徐々に手になじんでくる感覚はまさに「自分で育てる」ような特別感があります。

2.革とLouis Vuitton

タンニン鞣しを行い作られた革、【ヌメ革】を使っている高級ブランドの中の一つにルイ・ヴィトンがあります。いわずと知れた人気高級ブランドですね。ここからは、ルイ・ヴィトンの歴史とヌメ革についてご説明していきます。

2-1.ルイ・ヴィトンの歴史

ルイ・ヴィトンの名が大きく知れ渡ることになったきっかけはあるトランクの製造でした。当時、主な移動手段は馬車でした。雨が降ると荷物は雨風にさらされてしまうため、水が流れるようにドーム型の蓋を持つトランクが人気でした。しかしこの先交通機関の発達を想定したルイ・ヴィトンはこれから船や機関車が主な移動手段になってくるであろうと考え、効率よく積み上げられるよう平らなトランクを作り出しました。旅を原点として考えられたルイ・ヴィトンのトランクは貴族たちから高い評価を得ました。軽くて丈夫なトランクは仕切りなども設けられ、使いやすい仕様となっておりました。このスマートで使い勝手の良いルイ・ヴィトンのトランクは一躍人気を集め、ルイ・ヴィトンの名が広く知られるきっかけとなりました。

1978年に日本に上陸したルイ・ヴィトン、実は海外初の進出先が日本だったのです。同年のうちに東京と大阪に6店舗出店しファッション界でも大きな話題となり、一躍注目を集め大人気ブランドとなりました。過去には世界的アーティストとのコラボレーションなども行っており、最近だと日本出身の草間彌生さんや村上隆さんも、コラボレーションをしています。また、ルイ・ヴィトンといえば「モノグラム」や「ダミエ」のデザインが真っ先に思い浮かびますよね。これらは日本の家紋や市松模様をヒントにデザインされたと言われています。この親近感の沸くデザインが、現代の日本でも多くの人に愛される理由の一つかもしれませんね。

2-2.ルイ・ヴィトンとヌメ革

先ほどルイ・ヴィトンといえば、という話をしましたがデザインと併せて印象深いのが、この「ヌメ革」ではないでしょうか。ルイヴィトンはよくバッグのハンドル部分やショルダーベルトにヌメ革が使用されています。今までも何度かお話ししている通り、ヌメ革とは植物の樹皮や根に含まれる成分「タンニン」を使って鞣した革のことを言います。ナチュラルレザーとも呼ばれますが、その理由は加工の際に科学薬品などを一切使用しないことにあります。化学薬品を使用し、早く効率よく革を生産する方法も発達している現代において、時代の流れに逆行する形で残り続けるタンニン鞣しは、環境にも優しい製法です。加工中のダメージも少なく美しく仕上がるヌメ革は、非常に丈夫で長持ちします。使い続ける中で生まれるツヤは、ルイ・ヴィトンというブランドの美しさにさらに拍車をかけます。

ここまでルイ・ヴィトンのヌメ革についてのみクローズアップしてお話をしてきました。というのも「モノグラム」や「ダミエ」の表面素材は革ではなく、トアル地といわれる合成樹脂を使用している為です。こちらについては、別の記事にて詳細をご説明しておりますので、是非合わせてご覧ください。

合成皮革・トアル地について https://bag-repair.pro/blog/314/

3.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は革と人の歴史についてのご紹介とルイ・ヴィトンの歴史についてご説明させていただきました。長い時間をかけて受け継がれてきた製法と、それを守り抜いてきた職人たちの手によって現代の革製品とそれらを作り上げる技術があります。

REPAIRSHOP HIRAISHIYAではルイ・ヴィトンの染色やファスナーの修理、内装やヌメ革部分の交換なども承っております。また、ルイ・ヴィトン以外の高級ブランドのクリーニングや修理も承っております。当社のブログにて部品交換(修理)に際してのルイ・ヴィトンのロゴなどに関する注意点等についてまとめた記事もございますので、ぜひご覧ください。

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