内装・ポケット内側の生地張替えについて

2023.07.31

暑くて湿気の多い日々が続いていますが、皆様のバッグやお財布の保管状態はいかがでしょうか? 買った時の袋や箱に入れたまましまい込んでいたり、風通しの悪い場所に置いたままになっていたりしませんか?

特にこの季節、いざ使おうとしたら内側がベタベタでとてもじゃないけど使えない…なんて経験がある方もいらっしゃると思います。今回はそんなべた付きの原因や対策、そして交換修理についてご紹介していきます。


1. バッグやお財布の裏地とべた付き

衣類に限らず、バッグやお財布などの布や革が使用されている製品のほとんどには裏地が付いています。この裏地は表地に使用される生地とは異なっていることも多く、様々な用途があります。例えばスーツやコート等のフォーマルな衣類の裏地はツルツルサラサラしていて着脱がしやすくなっていたり、魅せるために柄が入っていたりします。他にも表地が薄い場合は裏地がその補強となっていたり、透けるのを防いでくれていたりします。

バッグやお財布の裏地も同様にそれぞれの役割があり、役割にあった素材が使用されています。ただ、素材によっては劣化してべた付きの症状が出てしまうことがあります。どのような素材がべた付きやすいのか、原因や保管方法についてみていきましょう。


1-1 べた付きが起こりやすい裏地の素材

裏地には様々な素材が使用されていますが、その中でもべた付きが起こりやすいものとそうでないものがあります。べた付きが起こりやすい生地の代表的なものとしては「合成皮革」が挙げられるでしょう。

べた付きが出て反対側の生地にもボロボロとはがれた欠片が付いてしまっている様子

合成皮革とは天然の素材である本革に似せて作られた生地のことで、動物愛護の観点から本革の使用を控えるべきという声や、本革よりも安価で入手可能というような理由から現在多くの衣類やバッグ、財布、家具等様々なものに使用されています。高級ブランドもかなり昔からこの合成皮革を取り入れていますね。最近では技術が発達し、一見するだけでは本革と見分けがつかないくらいのものも登場してきています。

そんな合成皮革ですが、こちらは表地だけでなくバッグやお財布の裏地としても多く使用されています。そしてそういった製品はべた付きが出てしまうことも多いのです。触ってみてべた付きが気になる…といった程度ならまだいいかもしれませんが、症状がひどくなると手にボロボロと何かが付く、バッグに入れたものにもベタベタが付いてしまう、目に見えて生地の表面が剝がれている、ということも起こり得ます。

張替え後のシャンタン生地


1-2 べた付きの原因

それでは何故そんなべた付きが起こってしまうのでしょうか?

答えは明確で、「加水分解」という反応が原因なのです。

そもそも加水分解とは、その名の通り水分が加わることによって分解されてしまう反応のことです。合成皮革に使用されているポリウレタンやエチレンに水分が加わることによって分解反応が起こり、劣化してしまうのです。もともとポリウレタンの寿命は製造から3年と言われており、加水分解が起きても起きなくても長く使用するのは難しい素材です。

ではポリウレタンが使用されているものだけに加水分解が起こるのかといえば、決してそうではありません。条件下によってはポリ塩化ビニルを使用した製品や、それ以外の素材であっても加水分解が起きることも十分考えられます。

※合成皮革が使用されていなくても、接着剤が使用させているものであれば加水分解が起こる可能性が高いです。接着剤の多くにはポリウレタンが使用されているため、加水分解で劣化し接着されている箇所が剥がれてしまうことがあります。


1-3 保管方法

そんな加水分解を避けるためには、適切な保管場所で適切な保管方法をとる必要があります。

前述いたしました通り、加水分解は水分が加わることによって引き起る反応です。水分、つまり湿気が原因とも言えるでしょう。湿気を避け、風通しの良い場所で保管するのが第一です。

そして、保管をする前に綺麗な状態にしておくことも大切です。汚れが付着したままになっていると、その汚れがシミとなり取れなくなってしまったり、生地の劣化を早めたり、変色の原因となってしまうこともあります。そのため、しまい込む前にクリーニングに出すなどして清潔な状態にすることをお勧めいたします。色褪せや変色防止のため直射日光も避けた方がいいですね。

また、購入時の袋や箱に入れたまま保管することはお勧めできません。高級ブランドの多くはヨーロッパに拠点を置いています。地域によっても異なりますが、ヨーロッパの気候の多くは年間を通して雨量の変化も少なく、湿気が少ないのが特徴です。比べて日本は季節がはっきり分かれており寒暖差が激しく、湿気が多い気候です。これだけ違いがあれば、日本においてヨーロッパに合わせた保管方法は相応しくないことがわかると思います。購入時の袋や箱に入れて保管しておきたい気持ちももちろんわかりますが、大切なバッグのためには、布袋はともかくせめて箱から出した状態で保管するのが良いでしょう。

市販の乾燥剤を入れておくのもいいですね!

REPAIR SHOP HIRAISHIYAでは緩衝材などに包みダンボールに入れてご依頼品をお送りしております。届きましたら直ぐに箱を開け、中を確認してから保管をお願いいたします。


2. ルイヴィトンの裏地

高級ブランドであるLOUIS VUITTON(ルイヴィトン)のバッグやお財布には必ず裏地が使用されています。

特にバッグは無地のものもあればモノグラム等がプリントされているものもあり、ルイヴィトンのバッグを華やかに彩っています。


2-1 バッグの裏地に多いテキスタイル

ルイヴィトンの公式ホームページで製品を詳しく見てみると、その素材も記載されていることはご存じでしょうか? ライニング(裏地)として表記されているものは「革」か「テキスタイル」がほとんどです。

この「テキルタイル」とアパレル用語としては布地や織物、繊維などのことを表しています。そのため一言でテキスタイルと表記されていてもそれが織物なのか布地なのかを判断することは難しいです。しかしながら、ルイヴィトンは型や使用用途によって最適なテキスタイルを使用しています。例えばよく見かけるモノグラムやダミエのバッグで多く使用されているのはキャンバス生地という太い糸作られた平織物です。中にはルイヴィトンの歴史とこだわりが感じられるプリントが施されていることもあり、ルイヴィトンというブランドがいかに細部までこだわり抜いているのか伝わってきますね。

ルイヴィトン ネヴァーフルのライニング。レトロチックな筆記体のロゴがプリントされている。


2-2 モデルチェンジによる裏地の変化の例

ルイヴィトンのバッグは稀にモデルチェンジされることがあります。その一例としてネヴァーフルを見てみましょう。

LOUIS VUITTON(ルイヴィトン)のネヴァーフルが誕生したのは2007年で、名前は「どんなに入れてもいっぱいにならない」=「Never full(ネヴァー フル)」という意味だそうです。そんなネヴァーフルがモデルチェンジしたのは2014年ごろ。見た目に大きな変化はありませんでしたが、ポーチが付き、内ポケットの裏地の素材が変わりました。

それまでのネヴァーフルの内ポケットには防水加工としてビニール加工が施されていました。しかし、この加工が劣化しボロボロに剥がれてしまうことが多かったようです。モデルチェンジによってこの防水加工は無くなり、現在は内ポケットの中はキャンバス生地のみとなっています。

こちらはシャンタン生地に交換したルイヴィトン ネヴァーフルの内ポケット。色味も周りと合わせて鮮やかなものを使用しました。


3.内装交換修理

さて、ここまで内装や裏地についてご紹介してきました。時代に合った裏地に変化してきているとはいえ、メーカーやブランドによってはやはりコスト軽減のため裏地にも湿気などによって劣化しやすいものを使用しているところも少なくありません。また、良い物は長く愛用されてきたものも多いはずです。長く使用していれば当然劣化は起きるもので、そういった経年による劣化にお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

REPAIR SHOP HIRAISHIYAにはそういったお悩みのご相談も寄せられますが、多くの場合は劣化してベタベタになってしまった裏地や内装の生地を交換することによってリペアが可能です。


3-1 内装交換修理

それでは実際に劣化とべた付きで内装交換修理を行ったルイヴィトンのバッグを例に見てみましょう。
こちらが交換修理前の状態です。

中の生地が劣化してボロボロになり、剥がれてきてしまっています。更に触るとべたつきがあり、手に欠片がくっついてしまいます。
内装交換修理ではこの劣化してしまっている生地を全て取り外し、べた付きが起こらないシャンタン生地へと交換をいたします。
このバッグの場合、内ポケット周りの革とチェーンの根革部分も一度取り外すようになりますね。
内側の生地を取り外す際には、まず口革と呼ばれる開口部の縁を一周している革を取り外します。バッグの構造によってはこれだけで裏地がそのまま外れることもあります。

口革を外し、ポケット周り等についている革も取り外し終えたら次は交換になる生地の型紙を作成します。あとは取り外した裏地を基に型紙を作成し、交換となる生地をカットして元の通りに縫い付ければ完了です!

内装交換修理後のルイヴィトンバッグ(バケット)



3-2 シャンタン生地

REPAIR SHOP HIRAISHIYAで内装交換修理を行う場合には、必ずシャンタン生地での交換をしております。
シャンタン生地とは、横方向の糸の太さが不均一なものが使用された平織物のことを指します。片方向の糸が不均一のため、表面には不規則な筋が出るのが特徴的です。元々は野生の蚕からとれる絹糸を使用したものでしたが、現在では綿やウール、ナイロンやレーヨンなどの化学繊維が使用されたものがほとんどになっています。
サラサラとした手触り、光沢によって生み出される上品な雰囲気、地の厚さによる丈夫さ、これらの特徴から高級バッグの裏地としてふさわしいものと言えるでしょう。


3-3 生地以外のべた付き

実は加水分解によってはべた付きを起こすのは裏地に限ったことではございません。
革には「コバ」と呼ばれる部位があり、それを保護しているのが「コバ剤」です。

コバ剤にはウレタンが含まれており、このウレタン成分が劣化の原因となってしまうことがあります。
この部分が劣化してべた付きがひどくなると周りの生地や革、衣類や手など触れた箇所全てにこの塗料が付いてしまうことがあります。この症状に心当たりがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

REPAIR SHOP HIRAISHIYAではこのようなコバ剤の劣化についてもお直しを承っております。

コバをお直しする際はひとつひとつ人の手で行っておりますため、お時間を頂戴する場合がほとんどです。コバのお直しをご検討される場合はその点についても予めご了承くださいませ。

劣化しているコバ剤の例。コバ剤が解けたように周りに広がっている。

まとめ

今回は加水分解によるべた付きが起きた裏地・内装交換修理についてご紹介いたしました。
クローゼット内で梅雨を過ごしたバッグやお財布はございませんか?
いざ使おうとしたときに使えなかったら悲しいですよね。「そういえばあのバッグはどうなってるんだっけ?」と思った方は、お早めに状態を確認することをお勧めいたします。

そしてべた付きが出てきてしまった場合はまずご相談くださいませ!


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