コバとその修理について

2023.08.22

バッグやお財布を使っていると、いつの間にか縁がベタベタしていろんな所に付くようになってしまった経験はございませんか?
手にも服にも濃い色のベタベタが付いてしまい、もう使いたくない! と思ったことがある方もいらっしゃると思います。

しかし、そのベタベタはお直しできる可能性がございます!

今回はバッグやお財布の縁に起こりがちなベタつきと、その修理についてご紹介させていただきます。

1.ベタつきの正体

そもそもあのベタつきの正体は一体なんなのでしょうか?
まずはそこから見ていきましょう。

1-1 コバ

ベタつきについて説明するには「コバ」について説明しなければなりません。
「コバ」とは革の裁断面のことで、漢字では「木端」、英語では「edge(エッジ)」と書きます。

革の裁断面はブランドや製品によってその処理の仕方が異なります。
蜜蝋で仕上げられたもの、水性塗料が塗られたもの、樹脂系塗料が塗られたもの、別の革を使用しパイピング処理されたもの……革の種類や製品の用途によって様々な仕上げがされています。デザイン面からみてもコバの色によって印象がガラッと変わることもあるでしょう。

中には革の風合いを出すために切りっぱなしにされているものもあります。しかしながら、切りっぱなしだと多くの場合は毛羽立ちが目立ちはじめ最終的には劣化してボロボロになってしまいます。
そのためコバの処理は革製品そのものにとっても非常に重要なことなのです。

剥がれているコバ/Louis Vuitton エピ ビジネスバッグ


1-2 ベタつきの原因

そんなコバのベタつきの正体のほとんどは「加脂剤(かしざい)の劣化」「樹脂の劣化」だと言えるでしょう。
コバに塗られる塗料(コバ剤)には加脂剤が入っておりそれが”加水分解”を起こして劣化するとベタつきが発生します。
加水分解は文字通り、水分が加わることによって分解反応が起こることを指します。

中でもシリコンのようなゴムっぽい樹脂系の塗料は製造から3年で寿命が来ると言われているポリウレタンが使用されています。柔軟性と光沢がありぷっくりとしており、高級ブランドにも多く使用されていますが、ポリウレタン樹脂も加水分解が起きるとベタつきがおこりやすいです。

仮に加水分解が起きなかったとしても、コバそのものの手入れを怠ったり強くこすったり頻繁に負荷がかかったりすると劣化していきます。この場合はコバ剤のひび割れや剥がれ等の症状が出てくる傾向にあります。

1-3 対策

それではコバ剤に加水分解が起きないようにするにはどうすればよいのでしょうか?

一番わかりやすい対策としては水分、つまり湿気が少ない場所で保管することでしょう。
クローゼット内にしまうとしても定期的に換気を行ったり、近くに乾燥材を置いたりすると良いですね。バッグやお財布であれば市販の乾燥剤を中に入れておくのも一つの方法です。
また、保管の際には必ずブランドの袋や箱から出した状態で保管をしましょう。不織布や紙袋に入れておくと尚良いですね。購入した際の説明書にはブランドの箱などに入れて保管するよう記載があると思いますが、高級ブランドのほとんどはヨーロッパに拠点を置いています。ヨーロッパと日本では年間を通しての雨量・気温が異なりますため、指定通りの保管方法をしていると劣化が早まってしまう可能性がございます。

あとはしまいっぱなしにせず普段から使ってあげるといいでしょう。

2.Louis Vuitton(ルイヴィトン)のコバ

Louis Vuitton(ルイヴィトン)のバッグやお財布にもコバが存在し、コバ剤でコーティングされています。それではどのようなコバがあるのか見ていってみましょう。

2-1 平らなコバ

まずはオーソドックスなヌメ革のコバ。
本体についている根革のコバを見てみると色が濃くなっているのがわかりますでしょうか。ルイヴィトンにおけるヌメ革のコバはそのラインや方によって異なります。こちらは多少使用感がございますが、新品のものをみるとオレンジや赤っぽくなっていることが多いです。
革の断面がそのまま見えることから、透明な液剤を塗って磨き上げているものと思われます。

ルイヴィトンのヌメ革のコバはバッグひとつをとってもその種類が異なる場合があります。
例えば丸い持ち手のものであればハンドル部分はぷっくりとしたコバコーティングで、その他の部分は上の画像のような薄いコーティングになっていることものが見られます。

2-2 ぷっくりしたコバ

こちらは長財布のコバです。
ルイヴィトンでは多くの長財布を出していますが、その側面のほとんどにはコバコーティングがされています。よく見るとジッピーウォレットにも使用されているのが見られますよ。

ルイヴィトンにおける長財布のコバはぷっくりしているものが多いです。
お財布は鞄に入れて持ち運んだり、頻繁に開閉したり、なにかと負荷がかかるものです。特にお財布は屈曲部が多く、その分コーティングも厚いものになっているものと思われます。

しかし、写真左側を見るとコバのコーティングが剥がれてしまっています。
この部分は折山(おりやま)といって、お財布を開閉する際には一番動きがある部分です。そうすると自然にコバにも負担がかかり、劣化も早くなります。
折山はコバのコーティングだけでなく縫い糸のほつれや生地の劣化も起こりやすい傾向にあり、それぞれの症状に合わせた修理を行っております。

2-3 その他のコバ

こちらもコバの一つですが、これはコーティング剤を使用せず内側に折り込む方法で処理がされています。
ルイヴィトンではモノグラムやダミエなどのトアル地多く見られます。また、ライニング(裏地)や薄い革が使用されているものにも多く見られる処理方法ですね。
表に使用されている革のコバにはコーティングがされていて、裏地にはこの処理方法が採用されていることもあります。

素材やデザインによって異なる方法がとられており、ルイヴィトンのこだわりを感じることができます。

3.コバの修理事例

REPAIR-SHOP HIRAISHIYAではコバの修復・修理も承っております。

ここではその修理事例をご紹介いたします!
ご相談やご注文の参考になれば幸いです。

3-1 例①

こちらはLouis Vuitton タイガ ロマン(グラシエ)です。
底の角が擦れ、グレー部分とコバが剥げてしまっています。
今回はグレー部分の塗りなおしとコバのリペアをお引き受けしました。

染めなおしの際はクリーニングが必須となっており、クリーニングでバッグに付いている汚れやホコリ等の余分なものを取り除きます。
その後にコバの劣化している部分も綺麗に拭き取らなければなりません。

ではリペア後の写真も見てみましょう。

色剥げが見えていた部分が綺麗に塗られていますね。
この部分はコバと革の表面共に一番擦れる部分でもあります。そのため他の部分よりもコバを少し厚めに塗り、念入りにトップコートでコーティングをいたしました。

※ルイヴィトン タイガは革の表面にある凹凸(シボ)が凸と凹で色が異なっており、塗りなおしをする際にはその色の差はなくなってしまいます。

3-2 例②

こちらもLouis Vuitton ポシェット ルイーズです。

コバが溶け、ベタベタと周りに広がってしまっています。
こういった場合でもベタついているコバを全て拭き取り、ベタついている箇所が無いようにしてから塗りなおしをしなければなりません。コバ剤は通常のシミ抜きで落ちるようなものではなく、アルコールやエタノールで拭き取りをします。しかし、このバッグの場合アルコールで拭き取ると周りのピンク色も一緒に色が抜けてしまうため、ピンク色部分の塗り直しも必要でした。

こちらが塗り直しをした後の写真です。

黒いコバと裏地のスウェードが非常に近い位置にあります。こういう場合、縫い目を解くわけにはいきませんのでコバ剤がスウェードにくっ付かないように細心の注意を払って塗り直しをしなければなりません。非常に神経を使う作業です。

3-3 例③

こちらはLouis Vuitton ダミエのビジネスバッグです。

角が擦れてコバのコーティングもほとんど見えなくなり、革そのものも変形してしまっているように見えます。
革は一度形が変わると元に戻すことはできないため、めくれている部分を引っ張り接着剤で付けてからコバ剤で押さえるようなイメージでリペアいたします。

こちらがリペア後の写真です。
広がっていた角が綺麗に収まっています。
硬さのある製品は一か所が集中して擦れやすいため、糸のほつれや革そのものの劣化が始まる前にメンテナンスをしてあげるのが望ましいですね。

4.まとめ

今回は「コバ」に焦点を当ててご紹介させていただきました。
バッグやお財布のデザイン面はもちろんですが、強度の面から見てもコバは非常に重要だということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
まずは適切な保管方法でバッグやお財布を劣化から守ってあげたいですね! もしそれでも何か気になる症状が出てきましたらプロに相談することをお勧めいたします。

REPAIR-SHOP HIRAISHIYAではご注文の前に一度ご相談いただくことをお勧めしております。当ホームページ内から「無料カウンセリング」にてお写真もお送りいただくことが可能ですので、リペア・修理について少しでも気になっていることがございましたら是非ご活用くださいませ!


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